元保健体育教師の樋上典子です

「それでも私は、子どもたちに性教育を届けたい」
こんにちは。樋上典子です。私は公立中学校の保健体育教員として長年勤務し、40年間性教育に関わり、15年以上にわたり人権と科学を基盤とした包括的性教育をめざして実践してきました。
今でこそ性教育の大切さが広く語られるようになりましたが、当時は「そんなことまで学校で教える必要があるのか」「子どもを性に誘導するのではないか」という批判やバッシングを受けることもありました。私自身もその渦中にいました。
授業について問い合わせを受けたり、批判されたり、実践を続けることが難しいと感じたこともあります。それでも私はやめませんでした。なぜなら、目の前の子どもたちが必要としていたからです。
授業の後、「誰にも聞けなかったことが分かった」「自分を大切にしたいと思った」「将来のことを真剣に考えるきっかけになった」そんな声を何度も聞いてきました。大人が性教育を巡って議論している間にも、子どもたちは成長します。SNSには間違った情報があふれ、誰にも相談できずに悩む子どもたちがいます。私は、批判されることよりも、子どもたちに必要な学びが届かないことの方がずっと問題だと思っています。
だから今も、現場に立ち続けています。
私が伝えたいのは「生きるための力」
性教育というと、妊娠や性感染症の話を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし私が伝えたいのは、それだけではありません。
- 自分の身体を大切にすること
- 相手を尊重すること
- 自分の意思を伝えられること
- 多様な性を認め合うこと
- 困った時に相談すること
- 自分の人生を自分で選ぶこと
こうした力は、子どもたちが幸せに生きていくために必要な力です。私は性教育を「生きる力を育てる教育」だと考えています。
足立区のすべての子どもたちに届けたい
現役教員時代からずっと感じていたことがあります。それは、「自分の学校の子どもだけが学べればよいわけではない」ということです。学校によって学ぶ機会に差がある現状を変えたい。どの学校に通っていても、すべての子どもたちが人権と科学に基づく性の学びを受けられるようにしたい。
そんな思いから、退職後に区内の医師や専門家の皆さんとともに「足立区"性の学び"プロジェクト」、そして「あだちせいきょういく部」を立ち上げました。私の夢はシンプルです。足立区のすべての子どもたちに性の学びを届けること。そのために、校長会や養護教諭部会などでも継続して必要性を訴え続けています。
学習テーマ(足立区"性の学び"プロジェクト」
現在は主に中学生を対象に、次のようなテーマで授業を行っています。
生命誕生とからだの権利
生命誕生のしくみや胎児の成長を科学的に学び、自分も他者も大切な存在であること、誰もが「からだの権利」を持っていることを学びます。
性の多様性
性的指向や性自認など、性のあり方は多様であることを知り、お互いを尊重し合うことの大切さを学びます。
自分の性行動を考える
妊娠や避妊、性感染症について正しい知識を学び、自分自身の行動を考える力を育てます。
恋愛とデートDV
対等で尊重し合える関係とは何かを考え、デートDVを予防するための知識を学びます。
子どもたちに身につけてほしいこと
私は授業を通して、子どもたちに次の力を身につけてほしいと願っています。
- 性について科学的に理解する
- 性について率直に話し合い、相談できる
- 正確な情報に基づいて行動を選択する
- 性の学びが人権につながることを理解する
活動実績
昨年度は足立区内11校の中学校でプロジェクトをご活用いただきました。
- 千寿桜堤中学校
- 伊興中学校
- 谷中中学校
- 西新井中学校
- 加賀中学校
- 花保中学校
- 鹿浜菜の花中学校
- 千寿青葉中学校
- 新田中学校
- 蒲原中学校
- 東島根中学校 など
そのうち8校では年間計画に組み込まれた形で実施されています。
授業後のアンケートでは、「性は一生向き合う大切なテーマだと思った」「自分の行動について考え直した」「相手を尊重することの大切さが分かった」という声が数多く寄せられています。現在は中学校だけでなく、小学校への展開も進めています。
私は、あきらめません
性教育を続ける中で、やめた方が楽だと思ったことは一度や二度ではありません。
でも、そのたびに思い出すのは子どもたちの顔です。知らなかったことで傷つく子どもを減らしたい。誰にも相談できずに悩む子どもを減らしたい。
自分をそして人を大切にできる子どもを増やしたい。そして、足立区のすべての子どもたちが、幸せに生きられる社会をつくりたい。それが、私が性教育を続けてきた理由であり、これからも続ける理由です。
プロフィール
元公立中学校保健体育科教員。現在は区内中学校時間講師。
関東学院大学・千葉市青葉看護専門学校非常勤講師。
大学研究者と連携しながら、15年以上にわたり包括的性教育を実践。現在も学校現場に立ちながら、小・中・高校生、保護者、教職員向けの講演活動を行っている。
主な著書
- 『実践 包括的性教育 ─『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を活かす』(共著、2022年)
- 『学校で教えてくれない性の話』(2024年)
- 『包括的性教育実践を拓く』(共著、2025年)

